20 運命の時へ

Mission20 運命の時へ


 赤い雲を衝くようにそびえる時限の塔――それは、まさに時を司る塔。
この星に訪れる危機を救うため、
選ばれた2匹のポケモンが、この塔の入り口にやってきた。
と、地面が揺れた!
「うわわっ、と!」
地震はすぐに収まった。
瓦礫がひとかけら落ちる音がする。
「今の、何だったのかしら……?」
レイが思考を巡らせてみた。
「各地の時が破壊されたのは、時限の塔が壊れ始めたからって……カミルが言ってたな」
「だとすると、さっきの地響きは……」
ルナが、あることに気づいた。
「もしかして、今にも時限の塔が壊れていってるってこと!?」
ならば、やることは1つ。
「急ごう!」
2匹は、塔の中に入っていった。

 塔の内部は、やけに無機質という印象を与えた。
壁も床も頑丈そうに見えるが、ところどころ壊れている。
そして、現れるポケモン達にも特徴があった。
「なんかさ、この塔のポケモンって性別なさそうな感じが」
「そう言われてみれば……」
確かに、出くわしたのはドーミラーやソルロックなど、
性別不明とされているポケモン達だ。
「とはいっても、どっちかに近いというのはあるのかもしれないな。
 イオンは♂寄りだろう?」
「ええ。あと、シルビアはどう考えても女の子よね」
「うーむ、考えてみると面白いかも」
2匹は改めて前を向き、塔の中を歩いていく。
と、何かが視界に入ってきた。
角ばった物体が、複数個くっついたポケモン――ポリゴンだった。
「また性別不明……?」
ルナがそうつぶやきながらも、戦闘態勢に入る。
予想以上の速さで動くポリゴンが、くちばしで初撃を繰り出してくる。
レイはそれを回避して、すいへいぎりを仕掛ける。
その攻撃はかわされるも、次にルナが放ったみずでっぽうが命中した。
水流に押されながらも、ポリゴンは踏みとどまる。
「おっと、まだやるか」
ポリゴンは体にかかった水を弾き飛ばした後、その動きを止める。
すると!
「!?」
体から黄色い光を発してきた!
同時に、部屋の中が数回フラッシュした。
「なんだ、今のは!?」
その次の瞬間、また周囲がまぶしく光る。
と同時に。
「きゃあああああああああっ!!!」
ルナが叫び声を上げていることに気づいた。
ポリゴンの放った光に体を貫かれたルナは、その場で倒れた。
体から煙が上がっている。
それを見て、レイはポリゴンが何をしたかに気づく。
「こういうことかっ!!」
先ほどのポリゴンと同じように、レイもまた体から光を発する。
正確に標的を捉えることができた。
ポリゴンが動かなくなったのを見て、レイはルナに駆け寄る。
「ルナ、大丈夫か?」
「ううっ……」
どうやら、何とか大丈夫なようだった。
「まさか、ほうでんを使ってくるなんて……痛かったぁ……」
「予想外だったな。歩けるか?」
「なんとかね。レイにやられた時のおかげで、少しは慣れたのかも」
ゆっくりと起き上がる。
ルナの言葉がレイには少し引っ掛かったが、
見たところ気にしてないようだった。
「この先もポリゴンが出るかもしれない。ルナ、さっきの防御技は使えるか?」
「使えるわ。危ないと思ったらやってみるね」
そこそこ体力を回復したルナは、レイの後に続いて再び歩き出した。

 その後も、レイとルナは塔を上り続けた。
時折現れるポケモン達は、やはり2匹を見つけると襲い掛かってくる。
「幻の大地で襲ってきたんだから、ここでも同じだよな……」
しかも、先ほど苦戦させられたポリゴンが、あるいはその進化形が頻繁に現れた。
その体から光を放ち、離れた場所からも攻撃してくる。
ルナにとっては不安と恐怖でいっぱいだった。
ひとたび防御に失敗すると、大きなダメージが待っている。
「正直、雷は苦手なんだけどなぁ……。レイとイオンのは別として、ね」
2匹の技によって倒されたポリゴン2を目の前に、ルナがおびえた声で言った。
弱点となる攻撃だけに、1回受けるだけで命取りになりかねない。
この時は、事前に攻撃を察知したレイが、見事にポリゴン2のほうでんを跳ね返したのだった。
「来るとわかっていれば、いくらでも対処のしようがあるんだが」
レイがポリゴン2を見て言った。
塔の床に転がっている人工ポケモンは、進化前と違って体が丸かった。
瞬間、ルナは後ろに何かの気配を察知した。
「えっ!?」
そこには野生のポケモンが1匹。
ポリゴン2がさらに進化した姿――ポリゴンZ。
先ほどのポリゴン2と同様、丸いフォルムをしていた。
いかにも人工的なバーチャルポケモンは、出会い頭に閃光を発する!
「うわああ!!!」
いきなりのことで、防御が間に合わなかった。
あまりに強い衝撃に、ルナは体をびくっと跳ね上がらせた。
「言ってるそばからこれかよ!!」
ポリゴンZとは反対側にいたレイが、すぐさま攻撃を仕掛ける。
シグナルビームの直撃を受けながらも、10まんボルトでノックアウトした。
「また不意打ちか……」
ビームが命中した箇所をさする。
一方、ルナはようやく動けるようになったところ。
「痛いよー……」
ふらふらと起き上がり、ルナはオレンの実を取り出して食べ始める。
「すまない、守れなくて」
レイがそう言った。
「ううん、今のは仕方ないわよ。いきなりだったんだから。
 しびれるの嫌だけど、そんなこと言ってられないものね」
ルナの言葉を聞きながら、レイは周囲を見回す。
「厳しいところだな……」
他に野生ポケモンはいないようだった。
2匹は引き続き塔を登る。
先はまだ長い。

 どこまで続くかと思われた時限の塔にも、やっと終わりが見えてきた。
「ここ……かな……」
レイとルナの2匹が、階段から塔の頂上に出る。
それと同時に、今日何度目かの地響きが起きた。
「おっと!」
地響きの音に乗せて、何かが崩れる音が聞こえる。
そして……目の前に広がる、殺風景な塔の頂上。
「なんだか、今にも崩れそうな気がする……」
レイがそう言うと。
「ひえっ!?」
今度は空から轟音が響いた。ルナがびっくりして声を上げる。
見上げると、上空には赤い雲が渦巻いている。
その雲を、赤色の光が伝わっているのが見えた。
「今にも落ちてきそう……」
ルナの表情が青ざめていく。
「あれは?」
レイが目に留めたのは、神秘的な祭壇だった。
見慣れた不思議な模様に、円形のくぼみが5個。
これが意味するものとは。
「そうか、ここに時の歯車を納めれば!」
その時!
「きゃあっ!!?」
轟音とともに、上空の赤い雲から雷が落ちてきた。
直撃こそしなかったものの、2匹は祭壇から弾き落とされた。
続いて、辺りが暗くなる。
「なんだ!?」

グルルルルルルルルルル……

さらに、うなり声がした。
そして現れるは巨大なシルエット。
「お前達か!この時限の塔を破壊するのはっ!!」
その声には聞き覚えがあった。
未来で見た、圧倒的な威圧感を放つポケモン。
時間を司る神。
現れたポケモンの名は――ディアルガ。

グオオオオオオオォォォォーーーーーッ!!!!

時間の神は、すさまじい咆哮を発している。
「時限の塔を破壊する者は、私が許さんっ!!」
ルナがその言葉を否定しようとしたが、圧倒的な威圧感にすくみあがっている。
――聞く耳持たずってやつか……
レイにとっては聞いた話でしかないが、
伝説のポケモンは総じて短気だという説が、一部で言われていることを思い出した。
グレアとイオンが出会った、エレキ平原のサンダー。
ギルドのデシベル達が戦った、地底の湖のエムリット。
そして、目の前にいるディアルガ。
しかし、レイは思考を切り替える。
――ディアルガは時が壊れた影響で暴走している……
  けど、未来で会った時に比べれば、まだ闇に染まり切っていない!
「ルナ!ディアルガを正気に戻す!今ならまだ間に合う!」
ディアルガを見たまま、レイが言った。
次の瞬間!

グオオオオオオオォォォォーーーーーッ!!!!

その咆哮が、決戦の始まりとなった。

 レイが10まんボルトを、ルナがどろばくだんを放つ。
ディアルガは向かってくる黄色い閃光をかわし、飛んでくる泥をわけもなく跳ね返した。
続いて、レイが接近して攻撃を仕掛ける。
その攻撃は命中するが、ディアルガはひるむ様子も見せなかった。
すると、ディアルガの足が浮きあがる!
「なに!?」
足についた鋭い爪が、レイに向かってきた。
レイは間合いを取って回避する。
「これはメタルクローか」
すぐさま、レイの横にいるルナが今度は冷気を身にまとう。
しかし、ディアルガの両目がルナを見据える。
鋭い目つき、そして雲をつくような巨体。
「ひっ!」
ルナは硬直し、攻撃をやめてしまった。
ディアルガの威圧感にひるんだのだ。
その時、ディアルガの腹部についた青い石が輝く!
さらに、体全体が先ほどまでよりも強烈な威圧感を放つ。
「く、来るか!?」

グオオオオオオオォォォォーーーーーッ!!!!

咆哮とともに、計り知れない威力の光線を撃ち出した。
周囲の大気を揺るがすほどの波動が、まっすぐに伸びてゆく。
「伏せろ!」
レイが叫ぶ。
2匹は塔の床に身を伏せ、光線をやり過ごす。
ディアルガの攻撃は、標的を捉えることなく通り過ぎていった。
あまりに違いすぎる体格の差ゆえの空振りだった。
「……あれ?」
ルナには軽い違和感がした。
目の前の神が、先ほどまでのような威圧感を発していない。
レイが10まんボルトを放つ。
ディアルガは避けようともせず、レイの攻撃をその身に受ける。
巨体がわずかに揺らぐ。
「ピンチの後にはチャンスが来る、か!」
さらに、ルナのみずでっぽうも正面から命中する。
ディアルガが後ずさる。しかし。

グオオオオオオオォォォォーーーーーッ!!!!

すさまじい勢いで吼えると、神は再び動き始めた。
空間に、小さな茶色の弾がいくつか浮かぶ。
それが一斉に降り注ぐ!
「うわわっ!」
弾がレイをかすめる。その衝撃で足を滑らせ転ぶ。
意外なほど大きなダメージだった。
「これ、めざめるパワー?」
「だろうな。しかも、じめんタイプの」
目には目を、とばかりにレイもめざめるパワーを撃ち出す。
黒い球がディアルガを直撃する。
「グオオォォ……」
それほどひるんだ様子は見せなかった。
休む隙を与えず、今度はルナがどろばくだんを放つ。
ディアルガが、わずかながら後ずさった。
「効いてる!?」
その時、空から轟音が響いた。
「ひゃっ!?」
続いて、赤い光が空からまっすぐに落ちてくる!
「危ない!!」
レイは自らのスピードを強化し、
素早くルナをその場から押し出した。
「……っ」
稲妻がレイをかすめるが、大したダメージには至らず。
「あー、びっくりした……」
突然の落雷に、ルナは驚きおびえた様子を見せる。
「こんな技まで使うとは」
「グルルルルルルル……」
目の前にたたずむディアルガは、うなり声を発している。
同時に、再び青い石が輝く!
再び、ときのほうこうを発射した。
今度は2匹とも素早い動きで回避する。
またしても、レイがこうそくいどうを使ったのだ。
光線を発し終わると、ディアルガは再びその動きを止める。
「チャンスだ!」
レイとルナは、これを機に攻撃を連発する。
10まんボルトからすいへいぎり、れいとうビームにどろばくだん。
絶え間ない攻撃に、さしものディアルガもその巨体を大きく揺るがせている。
だが、ディアルガの両目が光る!
その先にはルナがいた。
小さなポケモンは、固まって動くことができない。
そして!

グオオオオオオオォォォォーーーーーッ!!!!

天空に向けて、空気を割るような声で吼える。
その咆哮に応えるかのように、赤い空が輝く。
次の瞬間、赤い光が目にも留まらぬ高速で伸びてゆく!
「ぎゃぁぁぁぁあああ!!!」
天空からディアルガが呼び起こしたかみなりが、塔の頂上にいるルナを直撃した。
小さな体を大きくのけぞらせる。
みずタイプのポケモンにとっては、致命的ともいえる威力だった。
「ルナ、起きてくれ!」
しかし、返事はなかった。
ぐったりと横たわり、動こうとしない。小さな体から、火花が弾け飛んでいる。
レイは今のルナに触れることができない。
ショートして余計にダメージを大きくする危険があるからだ。
ディアルガのめざめるパワーを弾き返すと、触れても大丈夫なことを確認してルナに触れる。
――まだ生きている。
確かにそう感じ取った。
カミルから受け取った、復活の種を取り出す。そして、ルナに使った。

レイはディアルガに向き直る。
少なくとも今は、1匹で戦わねばならない。
レイは、接近して戦うことを選んだ。
ときのほうこうを使われるのは危険と判断し、足元に回って使わせないようにする。
あとは、足のメタルクローに注意して攻撃を加えていく。
ディアルガは、メタルクローとめざめるパワーで反撃を仕掛ける。
今の状況でかみなりは使いにくい上、もし使えたとしても
レイに対しては決定打になり得ない――それもレイの計算通りだった。
そして、ついにディアルガに傷をつけることができた。
高速で飛びあがってのすいへいぎりを命中させることで。
ディアルガは吼えながら向き直り、茶色の弾を連発する!
回避しきれず、レイは後方に弾き飛ばされた。
ちょうどルナの隣だった。
レイは真横のルナを見る。まだ動けそうにない。

グオオオオオオオォォォォーーーーーッ!!!!

腹部の青い石が輝き、ディアルガの全身にエネルギーが集まる。
その顔は正確にレイのいる方向を向いている。
しかし、距離が離れていて止めることができない。
かわすことはできるが、これをルナに命中されては今度こそ危険だ。
「ここまでか……」
その時、レイの隣で何かが動く気配がした。
次の瞬間、すさまじい光線が発せられる!

「!!?」
ディアルガの光線は、レイ達を傷つけることはなかった。
起き上がったルナの防御の技で、光線を防いだのだ。
「復活!レイ、助かったわ!」
レイも態勢を立て直す。
「カミルに感謝、だな!」
目の前のディアルガは、今回もまたその動きを止めている。
「今のうちに決めよう」
ルナがみずでっぽうを撃ち込むのと同時に、
レイは10まんボルトとこうそくいどうを発動する。
2つの攻撃が同時にディアルガを直撃した瞬間、
エネルギーの反発により白い光が広がる!
「グルルルル……」
ディアルガのうなり声が聞こえてきた。
その時、今度は氷の波動が空間を飛ぶ!
れいとうビームがディアルガの腹部に命中した。
その命中した箇所を中心に、ディアルガの巨体に氷が広がる。
「決まれっ!!」
ほとんど同時に、レイがディアルガとの距離をつめていた。
凍りついた部分に、すいへいぎりが直撃する!

グオオオォォォーーーーッ!!!

ディアルガは咆哮を上げるとその足を崩し……
ついに、神は大きな首を地面につけた。

「やった……のか……?」
レイとルナは、ディアルガの横を通り過ぎると
再び祭壇に登る。
そこで、レイがカミルから受け取った袋の中身を取り出す。
5個の時の歯車。
これらを目の前の祭壇に、1個ずつ納めていく。
しかし。
「うわわっ!?」
突然の地響きに、バランスを崩し後ろに転びそうになった。
だが、後ろからルナが支える。
「レイ、早く!」
5個全てを、祭壇に納めた。
時限の塔を揺るがす地響きは、次第にその勢いを弱めていく。
だが。

グオオオオオオオォォォォーーーーーッ!!!!

伏していたディアルガが、突然起き上がり絶叫する!
「えっ!?」
びっくりして振り向くレイとルナをよそに、
ディアルガは何回も咆哮を上げ続ける。
何度目かの咆哮と同時に、すさまじい波動が広がった。
「うわああっ!?」
2匹とも、目を開けてはいられなかった。

 一瞬の後に目を開けると、
目前にはディアルガが立っていた。
さっきまでよりも、体の色が薄くなっている。
「よくぞやってくれた」
反射的に、2匹は声のした方を向く。
ディアルガの声だ。
あまりの体格の違いに、ほとんど上を向く形になっている。
「これを見てくれ」
レイとルナの前に、周囲の空気と水が集まり
スクリーンを形作った。

 その中に、緑広がる森が見える。
風景に見覚えがあった。
「これは、キザキの森!」
よく見ると、草木が風に揺れているのが見える。
時間が動いているのだ。
次にポケモン広場、そしてこの時限の塔が映し出される。
なんとか崩れることなく、塔は原型を留めていた。
そこで、スクリーンからの映像は途切れる。
「時限の塔の破壊が止められたことで、止まっていた時間もまた動き始めた。
 世界は守られたのだ」
ディアルガの言葉を、レイとルナはただ聞くばかりだった。
「やった……の?」
レイはルナの方を向き、何も言わず……ただ首を縦に振った。
「ほ、本当に!?私達、本当にやったのね!」
そう言った時には、ルナはレイにくっついてきた。
受け止めながら、レイはディアルガに向き直る。
「ありがとう、全てはお前達のおかげだ」
一呼吸置いて、続く。
「幻の大地も荒れてはいるだろうが、それでも帰ることはできるはずだ。
 行くがよい、皆がお前達を待っているだろう」
「うん!レイ、帰ろう!」
ルナがレイを引っ張り、2匹は時限の塔を降りていった。

 塔から出た後、2匹は虹の石舟への道を歩いていた。
しかし、レイの歩く速度がやけに遅い。
「あれ?レイ、早く行こうよ!」
ルナがそう言った時、地響きがした。
が、それはすぐに止まる。
「まだ完全には、収まっていないのかしら……」
そうつぶやいた時、ルナはある光景を見た。
レイの体から、光が立ち上っているのを。
「あれ?どうしたの?」
すぐさま言葉が返ってくる。だが、それは。

「ルナ……聞いてくれ。僕は、もうすぐ消える」

返答を聞いたルナは、体全体から血の気が引くのを感じた。
「ええっ、き、消える!?どういうことなの!?」
「僕は未来から来た。そしてその未来が変わったんだ。星の停止を止めたことで。
 つまり、今のこの世界に僕は存在できない……」
静かに話すレイは、意外なほど落ち着いているようだった。
「今まで本当にありがとう。僕はここで消えるけど……ルナのことは、忘れない」
しかし、ルナはその逆である。
「ちょ、ちょっと待ってよ!よくわからないよ!
 レイがいなくなったら……私は……」
突然の事態に、ルナはひどくあわてている。
「それに約束したじゃない!必ず生きて帰るって!大事な話があるって!
 レイがいなくなったら、私言いたくても言えなくなっちゃうよ!」

――レイのことが、好きだって。

ルナの両目から、涙があふれ出した。
これ以上は言葉が続かない。
「うん、約束した。ルナだけでも、必ず生きてポケモン広場まで帰るんだ。
 ……みんなによろしく」
レイの声もふるえてきた。
そのことが、余計にルナの心をしめつける。

 瞬間、光が強くなってきた。
「レイ……行かないでよ……」
もう前もよく見えないまま、ルナはレイにしがみつく。
「ルナ……」
その言葉に、ルナはレイの顔を見た。
目と目が合う。
しかし、レイの姿が薄くなっていく――
「ルナのことは……ずっと忘れない……」
その時、ルナは見た。
レイの目から、一筋だけ涙がこぼれるのを。
次の瞬間、レイの体は光に包まれ――空に消えていった。
「……!」
思わずルナは周囲を見回した。
たった今までそこにいたはずの、レイがいない。
本当に、その場から消えていた。
「レイーーーーーー!!!」
ルナの叫びが、周囲に響き渡った。


 ポケモン広場の郊外、探検隊ウィンズの基地。
ある夕方、入口をたたく音がした。
「ちょっと出てくるね」
ロットが入口を開ける。その向こうにいるのは。
「……ルナ!!」
見境なく飛びついた。
「やったね!やったんだね!」
そこにグレアとイオンも現れる。
だが、目の前のルナの表情は暗い。
ロット達も気づいた。
帰ってきたのが、ルナだけだということに。
「あれ?レイとカミルは……?」
無意識のうちに、ロットが疑問を口に出した。
だが。
「みんな……っ!!」
今度は、ルナがロットにしがみついた。
ただならぬ様子に、3匹は何かを察知した。

 それから、ルナは今回の冒険のことを話した。
カミルとスペクターの決着、ディアルガとの決戦、
そして……レイとの別れ。
何度も声を詰まらせながら、ルナは全てを話した。
話を聞いた仲間達は、3匹揃って凍りついている。
「どうして……どうして言ってくれなかったの……?」
かすれた声で、ルナがつぶやく。
「言エナカッタノダロウ」
イオンが静かに言った。
「もし言ったら、自分の決心が鈍って前に進めなくなる。
 俺がヤツでも、そうしたはずだ……」
グレアがそう言い、そして付け加えた。
ロットも何か言おうとした。だが、何も言葉が出なかった。
その小さな体がふるえている。
「レイ……」
再び、ルナがロットにしがみつく。
涙が止まらず、あふれ出している。
この空間を強い悲しみが支配していた。
ロットは自分も泣きたいのを必死にこらえている。
グレアとイオンも近寄る。
「……うわあああああああん!!!」
ルナは涙が枯れるまで泣き続けた。

 いつの間にか、外は激しい雨が降っていた――




終わった……ついにMission20を書き終えた……
原作ではChapter-Final、時限の塔からエンディングにあたります。
間違いなく、今までで一番執筆に苦労したと言える。

道中にポリゴンが出てきたのは、ポリゴンに苦戦したという声が多かったので。
Blackも例外ではなく。レイはともかくルナが……。

そしてラスト。原作をどこまで再現できたのか……
今の自分にやれるだけのことをしてみました。

……しかし、この小説はもう少し続きます。
どうぞ、最後までお楽しみくださいm(_ _)m

2008.09.28 wrote
2008.10.13 updated



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